
最終更新日:2026年9月30日
感染対策といえば、手洗いやうがい、換気といったものが基本になりますが、近年あわせて注目されるようになっているのが、腸内環境と免疫との関わりです。
実は、ウイルスや病原菌などから身体を守るための「免疫」として、腸内環境や腸内細菌は、非常に重要な役割を果たしているのです。
そこでこの記事では、免疫の基本的なしくみを整理したうえで、感染症や免疫機能の維持との関わりが報告されている、注目の腸内細菌である「酪酸菌」について、そのはたらきを詳しく解説します。
あわせて、毎日の暮らしのなかで無理なく続けられる腸活のポイントもご紹介しますので、ぜひ今日から腸内環境を意識した健康管理をはじめてみて下さい。

免疫とは、ウイルスや細菌などの病原体に対して身体が備えている、体内の防御システムのことです。
免疫に関わる細胞は「自分」と「自分以外(異物)」を識別し、異物を排除することで外敵から私たちを守っています。
こうした免疫のはたらきを支えている要素のひとつとして、近年は腸内環境にも注目が集まっています。感染対策といえば、手洗いやうがいなどが代表的ですが、そのような外部的な感染対策だけではなく、身体が本来備えている防御機能を維持することも大切です。
免疫には大きく分けて、病原体などの異物の侵入を防ぐはたらきと、体内に侵入した異物を排除するはたらきがあり、これらが連携することで私たちの身体を守っています。
病原体の侵入は、目・鼻・口・気道・消化管などの粘膜や皮膚を介して起こります。
特に粘膜は、何層もの構造を持つ皮膚に比べて薄いため、異物が侵入しやすいという特徴があります。
そのため、粘膜では、外敵などの異物に特異的に反応する抗体(IgA抗体)が外敵にくっついて無力化するといった免疫システムが作動しており、このような粘膜の防御機能も、感染対策において重要な役割を果たしています。
粘膜のなかでも、大腸の粘膜は常に大量の細菌と接しており、身体を守る防御機能において重要な役割を担っています。
実際に、大腸は二層の厚い粘液層をまとう構造をしており、特に内側の粘液層が壁となって、病原体などの外敵が大腸上皮に直接接触することを防いでいます。
また、大腸の粘液は、便をコーティングすることで、スムーズな排便を促すような役割を担っています。
このように、大腸は有害な菌や物質などから身体を守り、スムーズな便通を助けるはたらきを持っており、こうした防御機能は「大腸バリア」ともいえるでしょう。
感染予防で大切なのは、病原菌などと物理的に接触しないことです。
腸内環境は、この大腸バリアの維持にも関わっており、近年は免疫との関わりについても研究が進められています。
腸は食べ物の消化吸収を行うと同時に、口から入ってくる細菌やウイルスなどの異物が体内に侵入しないように防御するはたらきを備える重要な器官です。
そんな腸には、生体防御を担当する免疫細胞の約70%が集まっているともいわれており、免疫機能を支える重要な器官のひとつです。
そして、腸の機能や腸内環境を支えているのが、数多くの腸内細菌がつくる「腸内フローラ」です。
腸内フローラは、免疫系、神経系、内分泌系と相互に連携をとることで、腸の機能を維持していると考えられています。
このように、腸内フローラや腸内細菌は、腸の防御機能や免疫機能とも深く関わっているのです。

感染症対策という観点でも注目されている腸内細菌が、「酪酸菌(らくさんきん)」です。
酪酸菌は、乳酸菌やビフィズス菌と同じ有用菌(善玉菌)で、「酪酸をつくり出す」という特徴があります。
酪酸菌が作り出す酪酸は短鎖脂肪酸の一種であり、その多くが直接、大腸のエネルギー源として使用されます。
大腸の粘膜上皮細胞が必要とするエネルギーのうち、約60〜80%は腸内細菌がつくる酪酸でまかなわれているともいわれており、大腸が正常にはたらくためには酪酸が欠かせません。
酪酸菌は、この酪酸を産生する代表的な腸内細菌のひとつです。
このように、酪酸は大腸の粘膜上皮細胞のはたらきを支える重要な物質であり、その酪酸を産生する酪酸菌も、腸内環境を考えるうえで重要な存在といえます。
酪酸が大腸バリアとの関わりで注目される理由のひとつとして、粘液との関係があります。酪酸菌が、腸に届いた食物繊維を発酵・分解して酪酸を産生すると、その酪酸が粘液の産生を促すことが分かっています。
大腸バリアには粘液が重要な役割を果たしていますので、酪酸はその土台づくりに関わっているということになります。
また、IgA抗体との関わりも忘れてはいけません。
粘膜の表面は常に粘液で覆われており、侵入してきた異物を洗い流すように機能しています。
また、粘膜ではIgA抗体が産生され、異物の侵入を防ぐ役割を担っています。酪酸に代表される短鎖脂肪酸は、こうしたIgA抗体を介した粘膜免疫との関わりも報告されています。
さらに、腸内におけるIgA抗体は、粘液層を足場としてはたらくことが知られており、酪酸はその粘液の産生にも関与していることが報告されています。
このように酪酸は、粘液の産生やIgA抗体のはたらきと関わることで、大腸バリアの維持に関与していると考えられています。
酪酸と免疫の関わりについては、このほかにも様々な研究が進められています。
たとえば、インフルエンザの感染防御に関わるIgA抗体やマクロファージ、CD8+(陽性)T細胞などの免疫応答との関連が実験的に報告されています。また、動物実験では、酪酸がインフルエンザ感染時の症状軽減と関わる可能性も報告されています。
こうした研究は現在も進められている段階ですが、酪酸や酪酸菌と免疫の関係や、腸内環境と感染対策のつながりなどが徐々に明らかになってきています。
ここまで酪酸菌についてご紹介してきましたが、腸内細菌は一種類だけではたらいているわけではありません。
腸内で酪酸がつくられるまでには、複数の菌が連携する「菌のリレー」と呼ばれる流れがあります。
食物繊維やオリゴ糖をエサに糖化菌が糖をつくり、その糖を乳酸菌やビフィズス菌が利用して乳酸や酢酸をつくり、それを酪酸菌が利用して酪酸をつくる、という流れです。こうした菌同士の連携は「菌のリレー」とも呼ばれています。
こうした菌同士の連携を支えることが、健やかな腸内環境の維持につながると考えられています。
糖化菌を含む納豆などの発酵食品や、乳酸菌を含むヨーグルトやキムチなどの発酵食品、酪酸菌を含むぬか漬けなどの食品や酪酸菌配合の整腸剤などを上手に活用し、健やかな腸内環境の維持につなげていきましょう。なかでも酪酸菌は、大腸のエネルギー源となる酪酸を産生する重要な菌であるため、日頃から意識して取り入れたい菌のひとつです。
腸内環境を整えるためには、ビフィズス菌や酪酸菌といった腸内細菌だけではなく、食物繊維やビタミンなどの栄養素を取り入れることも重要です。
ビタミンB1は腸管免疫にも関わる栄養素であり、欠乏するとIgA抗体による免疫応答に影響する可能性が報告されています。
また、多くの酪酸菌は自分でビタミンB1をつくることができないため、酪酸菌の活動を支えるためにも、ビタミンB1は意識的に摂取したい栄養素であるといえます。

感染症対策というと、手洗いうがいのように、外から異物(ウイルスや細菌など)の侵入を防ぐことに意識が向きがちですが、身体を守る仕組みと関わる「腸の状態」を整えることも大切です。
なかでも、酪酸菌がつくり出す酪酸は、大腸バリアの土台となる粘液の産生を促し、粘膜免疫との関わりも報告されています。そのため、腸内環境を考えるうえで、酪酸菌は注目したい腸内細菌のひとつといえるでしょう。
しかし、腸内細菌はひとつの菌だけではたらいているわけではありません。
糖化菌、乳酸菌、ビフィズス菌、そして酪酸菌へと続く「菌のリレー」がつながってはじめて、健やかな腸内環境が形づくられます。
手洗いやうがい、換気といった基本的な感染対策とあわせて、酪酸菌をはじめとする腸内細菌が元気にはたらける腸内環境づくりを始めてみましょう。
そのなかでも酪酸菌は、大腸バリアの維持に関わる酪酸を産生する菌として、健やかな腸内環境を支える重要な役割を担っています。