酪酸菌と酪酸について詳しく知る

酪酸の秘められたチカラ

免疫に関わる酪酸

腸は食べ物の消化吸収を行うと同時に、口から入ってくる細菌やウイルスなどの異物が体内に侵入しないように防御するはたらきを備える器官です。腸には生体防御を担当する免疫細胞の約70%が集まっていると言われており、免疫系の要になっています。

腸の免疫系は、食べ物などの無害なものは異物と見なさないため、通常過剰に反応することはありません。絶妙なさじ加減で機能している免疫系ですが、正常にはたらかなくなると不調を引き起こす原因に。免疫力の低下は感染症やがんなどにつながったり、逆に反応が過剰になると花粉症などのアレルギーや関節リウマチなどの自己免疫疾患などを引き起こしたりすることがあります。

  • 免疫と疾患の関係
  • 免疫と疾患の関係

つまり、健康でいるためには免疫系が正常に機能することがとても重要。実は、腸内の酪酸菌(酪酸産生菌)が作り出す酪酸には、免疫の過剰な反応を抑える役割のある細胞(制御性T細胞)が増えて働くための重要な機能を果たしていることが報告されています*1。酪酸は免疫系の異常によって起こる不調を防ぐ可能性があるのです。

大腸がんと酪酸の関係

がんの中でもっとも患者数の多い大腸がん(2014年 罹患数男女計)*2。がん化した細胞が無秩序に増殖し、大腸の壁の中にある血管やリンパ管に入り込むと、そこから他の臓器に転移を起こすようになります。酪酸には、この大腸がんを防ぐ可能性が示唆されています。

動物を用いた研究などから、酪酸は大腸がんの細胞増殖を阻害したり、がん細胞の細胞死を誘導したりすることがわかっています*3。さらに他の研究では、腸内細菌のエサとなる食物繊維の多い食事を与えられたマウスでは、発がん物質に曝露した場合の大腸がんの発症リスクが低く、その腸内では酪酸の量が増加していたことも報告されています*4

  • 大腸腫瘍細胞における酪酸の効果
  • 大腸腫瘍細胞における酪酸の効果

ここで取り上げた研究は動物実験によるものですが、今後はヒトに対する効果についても明らかになることが期待されています。

インフルエンザの症状を軽減する可能性

免疫力の低下が発症につながる感染症。特に、毎年多くの感染者を出すインフルエンザは、特に重症化しやすい高齢者や子どもにとっては注意したい感染症です。

スイスとオーストラリアの共同研究チームが行った最近の研究では、酪酸はインフルエンザの症状を軽減する可能性があると報告されています。インフルエンザの感染前から感染している間にかけて継続して酪酸を与えられたマウスでは、ウイルスに対する防御機能がはたらき、生存率の低下を防ぎ症状が軽減されたことを報告しています*5

  • インフルエンザ感染による生存率
    (酪酸摂取群・水摂取群との比較)
  • インフルエンザ感染による生存率(酪酸摂取群・水摂取群との比較)
  • インフルエンザ感染による症状
    (酪酸摂取群・水摂取群との比較)
  • インフルエンザ感染による症状(酪酸摂取群・水摂取群との比較)

食物アレルギーの軽減にも酪酸が関係!?

免疫の反応が過剰になることで起こるアレルギー。日本人の2人に1人が何らかのアレルギー症状を持つと言われ、アレルギー疾患はいまや国民病とも呼ばれています。酪酸には、そんなアレルギーを予防・軽減する可能性もあると報告されています。

  • 花粉症や喘息、食物アレルギーなどの
    アレルギーは増加傾向
  • 花粉症や喘息、食物アレルギーなどのアレルギーは増加傾向
  • 「免疫アレルギー疾患研究10か年戦略(案)のポイントについて」(厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課)より作成

米国とイタリアの共同研究チームは、健康な乳児と牛乳アレルギーを持つ乳児それぞれの腸内細菌を無菌マウスに移植して、マウスにアレルギー反応が起こるかどうかを観察しました。その結果、牛乳アレルギーを持つ乳児の腸内細菌を移植したマウスではアレルギー反応が起こることを報告しています*6

さらに、それぞれのマウスの腸内細菌の遺伝子解析を行い、酪酸を産生する菌の一種が食物に対するアレルギー反応を抑える可能性があることを示唆しています*6

自己免疫疾患と酪酸の関係

花粉症や食物アレルギーは「花粉」や「食物」を異物と認識して排除しようと過剰な免疫反応が起こる病気ですが、免疫系に異常が起こると、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰な反応が起こってしまうことがあります。それが、多発性硬化症や関節リウマチなどの自己免疫疾患です。

こうした自己免疫疾患の患者さんでは、腸内における酪酸の産生能力が低い可能性が示唆されています。多発性硬化症で通院中の患者さんの腸内細菌を遺伝子解析したところ、健康な人と比べて酪酸を作り出す酪酸菌が減少していたことが報告されています*7

糖尿病と酪酸の関係

酪酸が予防・改善に役立つ可能性があるのは、免疫系の異常による疾患だけではありません。実は、近年の研究から、生活習慣病の1つである2型糖尿病との関連も指摘されています。

中国と米国の共同研究チームによる2型糖尿病患者を対象とした研究では、腸内細菌が作り出す酪酸が血糖値の上昇の抑制に役立つ可能性が示唆されています。食物繊維を豊富に含む食事(高繊維食)を摂取した群と通常の糖尿病治療食を摂取した群とで、糞便中の短鎖脂肪酸の濃度を比較したところ、短鎖脂肪酸のうち酢酸の濃度には差が認められなかった一方で、酪酸の濃度は高繊維食群で増加が認められました*8
さらに、高繊維食群ではインスリンの分泌を促進するGLP-1というホルモンが多く作られ、長期的な血糖値の指標であるHbA1cの低下がみられたと報告されています*8

  • 糞便中の酢酸濃度の変化
  • 糞便中の酢酸濃度の変化
  • 糞便中の酪酸濃度の変化
  • 糞便中の酪酸濃度の変化
  • 糞便中の酢酸濃度の変化 糞便中の酪酸濃度の変化
  • 糞便中GLP-1産生変化
  • 糞便中GLP-1産生変化
  • 全血中のグリコヘモグロビンA1c
    (HbA1c)濃度の変化
  • 全血中のグリコヘモグロビンA1c(HbA1c)濃度の変化
  • 糞便中GLP-1産生変化 全血中のグリコヘモグロビンA1c(HbA1c)濃度の変化
  • P < 0.05、**P < 0.01、***P < 0.001(0日目との比較)
    #P < 0.05(同時点における通常食群との比較)
    AUCとは「area under the blood concentration time curve」
    の略で、体内の総量の指標となる。
    糞便中の酢酸濃度の変化:±標準誤差
    糞便中の酪酸濃度の変化:±標準誤差
    糞便中のGLP-1産生変化:±標準誤差
    全血中のグリコヘモグロビンA1c(HbA1c)濃度の変化:0日目からの変化率(±標準誤差)

酪酸は脳のはたらきにも関係があることが示唆されています。詳しくは「脳やストレスと酪酸の関係」で紹介していますので、あわせてご覧ください。

参考文献

*1 Furusawa, Y et al. Nature. 2013 Dec 19;504(7480):446-450

*2 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」

*3 Fung KY et al. Br J Nutr. 2012 Sep;108(5):820-31

*4 Sebastián C et al. Cancer Discov. 2014 Dec;4(12):1368-70

*5 Trompette A et al. Immunity. 2018 May 15;48(5):1-14

*6 T Feehley et al. Nat Med. 2019 Mar;25(3):448-453

*7 Miyake S et al. PLoS One. 2015 Sep 14;10(9):e0137429

*8 Zhao L et al. Science. 2018 Mar 9;359(6380):1151-1156

関連リンク