酪酸菌と酪酸について詳しく知る

酪酸菌が長寿のカギを握る?

長寿研究で注目される酪酸菌

世界中の研究者たちが関心を寄せる腸内細菌。酪酸菌(酪酸産生菌)も注目されている菌の1つです。酪酸菌が作り出す酪酸は、大腸のエネルギー源として利用され大腸の正常なはたらきを支えていることは以前から知られていました。

近年の研究の進歩によって、酪酸は免疫系や神経系、内分泌系などの全身の健康にも影響を与えることが報告されています。こうした酪酸のはたらきを解明する研究には、日本人の研究者たちも貢献してきました。

世界的に長寿国として知られる日本では、長寿の秘訣を探る研究も行われています。そのなかで、酪酸菌が長寿にも関係していることが明らかになりつつあります。

酪酸菌は長寿菌!?

日本の腸内細菌研究を牽引する理化学研究所特別招聘研究員の辨野義己先生。2018年に開催された「第22回腸内細菌学会」のなかで、辨野先生は「私の研究で近年一番大きな発見は、健康長寿者の腸には酪酸菌とビフィズス菌が非常に多いということ」とお話しされています*1

長寿者が多い地域に住む高齢者の腸内細菌を解析したところ、これまで健康に役立つとして重要視されてきたビフィズス菌以外に、酪酸菌が多く検出されることがわかったのです。

この結果を受けて、辨野先生はビフィズス菌と酪酸菌を「長寿菌」と呼ぶことに。「この長寿菌こそ、健康長寿を維持するのに欠かせない腸内細菌であると確信している」と期待を寄せられています*2

  • 酪酸菌の顕微鏡データ
  • 酪酸菌の顕微鏡データ

長寿者の腸内フローラ

酪酸菌と長寿の関係は他の研究でも明らかになりつつあります。それが、京都府立医科大学が2017年からスタートさせた「京丹後長寿コホート研究」です。

京都府の北部に位置する京丹後市。この地域は、住民の人口に占める100歳以上の方(百寿者)の割合が全国平均の2.8倍と、際立って長寿者の多い地域です。男性の世界最高齢を記録し、116歳で亡くなった木村次郎右衛門さんも京丹後市で生まれ、生涯を過ごしました。
また、京都府のがん罹患率では、京丹後市は京都市と比較して大腸がんの罹患率が低いこともわかっています。

  • 京都府医療圏別がん罹患率
  • 京都府医療圏別がん罹患率
    各医療圏における主要部位のがんの罹患率(年齢調整罹患率)を、京都府平均と比較し、レーダーチャートで表したもの。
    「100」の目盛は府平均の年齢調整罹患率と等しい場合を示す。
    府平均より高い場合はそれより外側の、低い場合は内側のグラフを描く。
    百寿者(100歳を超えた方)

    年齢調整罹患率の平均値(2014年京都府がん登録情報)

  • 京都府医療圏別がん罹患率
  • 京都府医療圏別がん罹患率
  • 年齢調整罹患率の平均値(2014年京都府がん登録情報)
  • 年齢調整罹患率の平均値(2014年京都府がん登録情報)
  • 各医療圏における主要部位のがんの罹患率(年齢調整罹患率)を、京都府平均と比較し、レーダーチャートで表したもの。
    「100」の目盛は府平均の年齢調整罹患率と等しい場合を示す。
    府平均より高い場合はそれより外側の、低い場合は内側のグラフを描く。
  • 百寿者(100歳を超えた方)

「京丹後長寿コホート研究」の一環として、京都府立医科大学消化器内科学教室准教授の内藤裕二先生は、京丹後市に住む65歳以上の人の腸内フローラを調査。比較対象として京都市に住む65歳以上の人の腸内フローラも調べました。

その結果、京丹後市に住む人ではカラダにいい作用をもたらす細菌が多く属するファーミキューテス門の割合が高いことが判明。さらに、そのファーミキューテス門の構成を詳しく調べたところ、トップ4を占めたのはすべて酪酸菌だったのです。

  • 京丹後市vs 京都市:
    腸内フローラ⽐較(⾨)
  • 京丹後市では、京都市と⽐較して、プロテオバクテリア⾨、バクテロイデス⾨が減少し、ファーミキューテス⾨が増加していた。
  • 京丹後市vs 京都市:
    腸内フローラ⽐較(属)
  • さらに京丹後市のファーミキューテス門の内の上位4つの菌はすべてクロストリジウム菌という酪酸菌だった。
  • 京丹後市vs 京都市:腸内フローラ⽐較(⾨) 京丹後市vs 京都市:腸内フローラ⽐較(属)

    Naito Y, et al.
    J Clin Biochem Nutr 2019, in press.

  • 京丹後市に住む65歳以上の方51人と、京都市に住む65歳以上の方51名とで、性・年齢をマッチングさせ、腸内フローラの比較を行った。
  • 京丹後市vs 京都市:腸内フローラ⽐較(⾨)
  • 京丹後市では、京都市と⽐較して、プロテオバクテリア⾨、バクテロイデス⾨が減少し、ファーミキューテス⾨が増加していた。
  • 京丹後市vs 京都市:腸内フローラ⽐較(⾨)
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  • 京丹後市vs 京都市:腸内フローラ⽐較(属)
  • さらに京丹後市のファーミキューテス門の内の上位4つの菌はすべてクロストリジウム菌という酪酸菌だった。
  • 京丹後市vs 京都市:腸内フローラ⽐較(属)

    Naito Y, et al.
    J Clin Biochem Nutr 2019, in press.

  • 京丹後市に住む65歳以上の方51人と、京都市に住む65歳以上の方51名とで、性・年齢をマッチングさせ、腸内フローラの比較を行った。

長寿地域に住む高齢者の腸内に多いことが判明した酪酸菌。単なる長生きではなく、健康で自立した生活を送れる「健康寿命」を伸ばすことが重要視されるなか、酪酸菌の注目度はますます高まっていくと考えられます。

COLUMN

腸内細菌の分類と階層

生物は、基本的に「ドメイン-界-門-綱-目-科-属-種」という順で階層的に分類されます。わかりやすくヒトで例えると、「真核生物-動物界-脊索(せきさく)動物門-哺乳綱-霊長目-ヒト科-ヒト属(ホモ)-サピエンス」となります。
1000種類以上あるといわれるヒトの腸内細菌も、この階層で分類することができ、その99%以上が、ファーミキューテス、バクテロイデス、プロテオバクテリア、アクチノバクテリアの4つの「門」に属します。
最も優勢な門は、50~70%を占めるファーミキューテス門で、20~30%のバクテロイデス門、10%のプロテオバクテリア門、10%弱のアクチノバクテリア門が主な構成因子です(下グラフ)。
ファーミキューテス門は、カラダにいい作用をもたらす菌が多いとされ、いくつかの酪酸菌も、ファーミキューテス門クロストリジウム属に分類されています。アクチノバクテリア門を代表する菌が、ビフィドバクテリウム属のビフィズス菌です。プロテオバクテリア門にはエシェリシア属の大腸菌や食中毒を引き起こすカンピロバクター属などが含まれます。バクテロイデス門は、いわゆる日和見菌で、有用菌か有害菌のどちらか優勢な方に味方して作用します。

  • ヒトの腸内フローラの種類
  • ヒトの腸内フローラの種類
  • *出典:「消化管(おなか)は泣いています」 著:内藤裕二(ダイヤモンド社)

参考文献

*1 辨野義己. 「“長寿菌”がいのちを守る !〜大切な腸内環境コントロール〜」 第 22 回腸内細菌学会 市民講座

*2 辨野義己. 「腸内細菌」が健康寿命を決める!〜プロバイオティクスで腸内環境コントロール〜2017/7/28「乳酸菌の科学」一般社団法人全国発酵乳乳酸菌飲料協会・発酵乳乳酸菌飲料公正取引協議会

関連リンク