酪酸菌と酪酸について詳しく知る 酪酸菌が長寿のカギを握る?

監修:内藤 裕二 先生
(一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会 理事長/日本酸化ストレス学会 理事長/京都府立医科大学大学院 医学研究科生体免疫栄養学講座 教授)
協力:京丹後市健康長寿福祉部健康推進課

長寿研究で注目される酪酸菌

世界中の研究者たちが関心を寄せる腸内細菌。酪酸菌(酪酸産生菌)も注目されている菌の一つです。酪酸菌が作り出す酪酸は、大腸のエネルギー源として利用され大腸の正常な働きを支えていることは以前から知られていました。

近年の研究の進歩によって、酪酸は免疫系や神経系、内分泌系などの全身の健康にも影響を与えることが報告されています。こうした酪酸の働きを解明する研究には、日本人の研究者たちも貢献してきました。

世界的に長寿国として知られる日本では、長寿の秘訣を探る研究も行われています。そのなかで、酪酸菌が長寿にも関係していることが明らかになりつつあります。

  • 酪酸菌の顕微鏡データ
  • 酪酸菌の顕微鏡データ

長寿者の腸内フローラ

酪酸菌と長寿の関係について、研究で明らかになりつつあります。その一つが、京都府立医科大学が2017年からスタートさせた「京丹後長寿コホート研究」です。

京都府の北部に位置する京丹後市。この地域は、住民の人口に占める100歳以上の方(百寿者)の割合が全国平均の3.44倍と、際立って長寿者の多い地域です。男性の世界最高齢を記録し、116歳で亡くなった木村次郎右衛門さんも京丹後市で生まれ、生涯を過ごしました。

「京丹後長寿コホート研究」の一環として、京都府立医科大学大学院 医学研究科 教授の内藤裕二先生は、京丹後市に住む65歳以上の人の腸内フローラを調査。比較対象として京都市に住む65歳以上の人の腸内フローラも調べました。

その結果、京丹後市に住む人ではカラダにいい作用をもたらす細菌が多く属するファーミキューテス門の割合が高いことが判明。さらに、そのファーミキューテス門の構成を詳しく調べたところ、トップ4を占めたのはすべて酪酸菌だったのです。

  • 京丹後市 vs 京都市:
    腸内フローラ比較(門)
  • 京丹後市では、京都市と比較して、プロテオバクテリア門、バクテロイデス門が少なく、ファーミキューテス門が多かった。
  • 京丹後市 vs 京都市:
    腸内フローラ比較(属)
  • さらに京丹後市のファーミキューテス門の内の上位4つの菌はすべてクロストリジウム菌という酪酸菌だった。
  • 京丹後市vs 京都市:腸内フローラ⽐較(⾨) 京丹後市vs 京都市:腸内フローラ⽐較(属)

    Naito Y, et al.
    J Clin Biochem Nutr 2019, in press.

  • 京丹後市に住む65歳以上の方51人と、京都市に住む65歳以上の方51名とで、性・年齢をマッチングさせ、腸内フローラの比較を行った。
  • 京丹後市vs 京都市:腸内フローラ⽐較(⾨)
  • 京丹後市では、京都市と比較して、プロテオバクテリア門、バクテロイデス門が少なく、ファーミキューテス門が多かった。
  • 京丹後市vs 京都市:腸内フローラ⽐較(⾨)
  • 京丹後市vs 京都市:腸内フローラ⽐較(属)
  • さらに京丹後市のファーミキューテス門の内の上位4つの菌はすべてクロストリジウム菌という酪酸菌だった。
  • 京丹後市vs 京都市:腸内フローラ⽐較(属)

    Naito Y, et al.
    J Clin Biochem Nutr 2019, in press.

  • 京丹後市に住む65歳以上の方51人と、京都市に住む65歳以上の方51名とで、性・年齢をマッチングさせ、腸内フローラの比較を行った。

長寿地域に住む高齢者の腸内に多いことが判明した酪酸菌。単なる長生きではなく、健康で自立した生活を送れる「健康寿命」を延ばすことが重要視されるなか、酪酸菌の注目度はますます高まっていくと考えられます。

酪酸菌を増やすには?

ここまで酪酸菌が長寿のカギを握る細菌であることをお伝えしてきました。

酪酸菌が作り出す「酪酸」は大腸のエネルギー源となり、大腸の正常な働きを支える働きがあります。そんな私たちの健康に貢献する酪酸を作り出すことができる腸内細菌「酪酸菌」。体内の酪酸を増やすには、酪酸菌の働きを促し、腸内の酪酸菌を増やしていくことが重要となります。

ここからは、体内の酪酸菌を増やす方法についてご紹介します。

食事

酪酸菌を含む食品はほとんどなく、食事から酪酸菌を摂るのは難しいのが現状です。しかし、体内の酪酸菌を増やすために有用な方法の一つに食事があります。
食事を工夫することで腸内の酪酸菌を育てることができるためです。酪酸菌は、腸内細菌のエサとなる食物繊維を摂ることによって育てることができます。

食物繊維は大きく分けると水溶性と不溶性があり、特に腸内細菌のエサになりやすい水溶性食物繊維を意識して摂ることが大切です。
水溶性食物繊維は海藻類や果物類、不溶性食物繊維は穀類や豆類に多く含まれています。例えば、わかめや昆布、大豆、サツマイモなどが挙げられます。
さらに、いま特に注目されているのが、食物繊維のなかでも腸内でより発酵しやすく、有用菌のエサになりやすい「発酵性食物繊維」です。これは、水溶性食物繊維の多くと不溶性食物繊維の一部を指し、代表的な食材として、大麦や小麦全粒粉、玄米、根菜類、大豆製品などがあります。

なお、食物繊維の1日あたりの摂取量の目安は、成人男性が21g以上、成人女性が18g以上(18~64歳)です。しかし、バランスの良い食生活を継続するのは難しいもの。酪酸菌が配合された整腸剤を活用していくのも良いかもしれません。

運動

運動習慣の改善も腸内の酪酸菌を増やすのに有用な方法の一つです。

ある研究によると(下図)*1、息が上がるようなやや強度の高い運動を30~60分間、週に3回を6週間続けて行うことで、BMIにかかわらず酪酸菌の割合が増加し、この効果は普通体重、やせ型の人でより顕著だったと報告されています。運動期間後は酪酸菌の割合が減ってしまうとの報告もされているので、継続して運動することも酪酸菌を増やすためには重要そうです。

運動前・中・後の5つの酪酸菌の増減(BMI25未満の群とBMI30以上群の比較)

  • # 運動ありまたは、運動なしの主な効果(p<0.05)
    平均±標準誤差

*1 Med Sci Sports Exerc. 2018 Apr;50(4):747-757.

酪酸菌を育てるおすすめレシピ

酪酸菌の生存にとっては、食物繊維や多彩な食材が必要です。酪酸菌を育てるおすすめレシピについて、長寿のまち・京丹後市で食されている、さまざまな料理のレシピのうち、食物繊維を手軽に摂取できる「ずいきと三度豆(インゲン豆)の炊いたん」と「わかめのパー」の二つをご紹介します。

ずいきと三度豆(インゲン豆)の炊いたん

材料(4人分)

ずいき100g(生でも乾燥でも可)
三度豆(インゲン豆)50g(入手できるもので代用可)
だし150cc
濃口醤油大さじ2
みりん小さじ4
小さじ4

つくり方

  • 1.ずいきを5㎝位の長さに切り、水で洗って水気をきる。
  • 2.鍋に調味料を入れ、三度豆を入れる。
  • 3.ひと煮立ちさせたら2にずいきを入れて、さらに煮る。

<豆知識>

「ずいき」とは里芋の地上部分に伸びた茎の部分です。
また、豆には良質なたんぱく質の他に、腸内細菌のエサになる食物繊維が豊富に含まれています。前述のとおり、京丹後の長寿の方々の腸内細菌には、酪酸菌が多いという特徴が見つかっています。食物繊維は、その酪酸菌の生存に欠かせないものです。

<POINT>

三度豆は、少し甘さを感じるぐらいに炊いておくと美味しいです。

わかめのパー

材料(10人分)

板わかめ100g
炒りごま10g
濃口醤油50ml
40ml
みりん50ml
砂糖30g
50ml
煮干し適量

つくり方

  • 1.わかめは水またはぬるま湯でさっと洗い、ボウルに入れて蓋をし、わかめ全体に湿りが入るまでそのまま置く。(2時間)
  • 2.よく湿ったわかめを包丁でできるだけ細かく切る。
  • 3.鍋に調味料と水を入れて沸騰させる。
  • 4.煮干し(大きいものは切る)を、わかめと一緒に入れて中火にし、煮汁がなくなるまで箸で炒るように混ぜながら煮る・仕上げに炒りごまを混ぜる。(粉さんしょうを入れても良い)

<豆知識>

わかめなどの海藻類には、水溶性食物繊維が含まれています。水溶性食物繊維は腸内細菌のエサとなり、腸内細菌を育て活性化させる働きがあります。
水溶性食物繊維も、酪酸菌の生存に欠かせないものです。

これらのレシピは、『~今に活きる~京丹後百寿人生のレシピ 第4版』(発行:京丹後市健康長寿福祉部健康推進課)に掲載されています。『京丹後百寿人生のレシピ』には長寿地域「京丹後市」の郷土料理や、腸活食材を使用したレシピが多数掲載されています。

健康のカギとなる酪酸菌を増やそう!

日本人が健康長寿を維持するためにも、「酪酸菌」は重要な存在といえるでしょう。酪酸菌は食材から直接摂取することが難しいため、酪酸菌のエサとなる食物繊維を摂り、腸内で育てることが大切です。酪酸菌を含んだサプリメントや整腸剤を使用してみるのも良いでしょう。

今回ご紹介したレシピなどを参考に、まずはバランスのとれた食生活をし、酪酸菌を育てていきましょう。

COLUMN 腸内細菌の分類と階層

生物は、基本的に「ドメイン-界-門-綱-目-科-属-種」という順で階層的に分類されます。わかりやすくヒトで例えると、「真核生物-動物界-脊索(せきさく)動物門-哺乳綱-霊長目-ヒト科-ヒト属(ホモ)-サピエンス」となります。
1000種類以上あるといわれるヒトの腸内細菌も、この階層で分類することができ、その99%以上が、ファーミキューテス、バクテロイデス、プロテオバクテリア、アクチノバクテリアの4つの「門」に属します。
最も優勢な門は、50~70%を占めるファーミキューテス門で、20~30%のバクテロイデス門、10%のプロテオバクテリア門、10%弱のアクチノバクテリア門が主な構成因子です(下グラフ)。
ファーミキューテス門は、カラダにいい作用をもたらす菌が多いとされ、いくつかの酪酸菌も、ファーミキューテス門クロストリジウム属に分類されています。アクチノバクテリア門を代表する菌が、ビフィドバクテリウム属のビフィズス菌です。プロテオバクテリア門にはエシェリシア属の大腸菌や食中毒を引き起こすカンピロバクター属などが含まれます。バクテロイデス門は、いわゆる日和見菌で、有用菌か有害菌のどちらか優勢な方に味方して作用します。

  • ヒトの腸内フローラの種類
  • ヒトの腸内フローラの種類
  • *出典:「消化管(おなか)は泣いています」 著:内藤裕二(ダイヤモンド社)

この記事を監修してくれたのは…内藤 裕二 先生

内藤 裕二先生

一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会 理事長/日本酸化ストレス学会 理事長/京都府立医科大学大学院 医学研究科生体免疫栄養学講座 教授

消化器専門医として最新医学に精通し各地で講演も行っている。消化器病学や消化器内視鏡学、生活習慣病の他、健康長寿や抗加齢医学、腸内フローラや酪酸菌研究も専門としており、「京丹後長寿コホート研究」で腸内フローラ解析に携わっている。酪酸菌と健康長寿の関係などの研究をはじめ、長年腸内細菌を研究し続けている本領域の第一人者。
『すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢 基本知識から疾患研究、治療まで』(羊土社)を上梓。

参考文献

内藤裕二他監修「百寿人生のレシピ」,京丹後市健康長寿福祉部健康推進課,2022

内藤裕二 「全ての臨床医が知っておきたい 腸内細菌叢」,羊土社,2021

内藤裕二 「酪酸菌を増やせば健康・長寿になれる~今、話題の酪酸・酪酸菌のすべてが分かる!」,あさ出版,2022

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