酪酸菌と酪酸について詳しく知る 注目の「酪酸」のはたらき

大腸のエネルギー源になる酪酸

解析技術の進歩を背景に、近年、腸内細菌の研究がさかんに行われています。腸内細菌は何によって、どのように私たちのカラダに影響を与えているのか? 世界中の研究者たちがその謎に迫ろうとしています。

そこで注目されているテーマの1つが、酪酸です。酪酸は、腸内細菌の酪酸菌(酪酸産生菌)が腸に届いた食物繊維を発酵・分解することで作り出される、短鎖脂肪酸の一種。短鎖脂肪酸には、酪酸のほかにも酢酸やプロピオン酸などがあります。

  • 腸内細菌が食物繊維を分解して
    酪酸が産生されるまで(イメージ)
  • 腸内細菌が食物繊維を分解して酪酸が産生されるまで(イメージ)

腸内細菌が作る短鎖脂肪酸のうち、酢酸やプロピオン酸の一部は大腸で消費されますが、ほとんどが大腸の粘膜から吸収され、血流に乗って全身へ。肝臓や筋肉、腎臓などに運ばれたのち、エネルギー源や脂肪を作るための材料になります。

一方、酪酸はその多くが直接、大腸の粘膜上皮のエネルギー源に。粘膜上皮細胞が必要とするエネルギーの約60~80%は腸内細菌が作る酪酸でまかなわれていると言われています。大腸の粘膜上皮には、水分・ミネラルの吸収や、バリア機能を担う粘液の分泌といった機能があります。大腸が正常に機能するには、酪酸は重要と言えそうです。

  • 短鎖脂肪酸の生理作用

酪酸が健康な腸内フローラを育てる

エネルギー源となって大腸の正常なはたらきをサポートする酪酸。実は最近の研究によって、酪酸は腸内フローラを健康な状態にキープするのにも役立っていることがわかってきました。

腸内細菌は、種類によって酸素を必要とする度合いが違います。腸にいいはたらきをする有用菌(善玉菌)の代表であるビフィズス菌、そして酪酸菌は、生育に酸素を必要としないタイプ。一方、腸内で悪さをする有害菌(悪玉菌)のブドウ球菌や大腸菌などは、酸素があってもなくても生育できるタイプです。

  • 酸素濃度と腸内細菌の関係 (イメージ)
  • 酸素濃度と腸内細菌の関係 (イメージ)

つまり、大腸内の酸素が少なければ、ビフィズス菌や酪酸菌などの酸素を苦手とする細菌が活動しやすいということ。酪酸は、大腸の粘膜上皮細胞の代謝を促して酸素を消費させ、酸素が腸管内に行き渡らなくなることが報告されています*1。この酪酸のはたらきがあるからこそ、腸内フローラは保たれると言えそうです。

  • 大腸の粘膜上皮における酪酸の作用機序
  • 腸内フローラが乱れた状態
  • 腸内フローラが乱れた状態
  • 腸内フローラが健康な状態
  • 腸内フローラが健康な状態

有用菌(善玉菌)を生かす酪酸

消化管に慢性的な炎症が起こるクローン病や潰瘍性大腸炎などの全身性の疾患を持つ患者さんでは、腸内における酪酸の産生が低下し*2、乳酸菌やビフィズス菌などの有用菌(善玉菌)が健康な人と比べて少ないという報告があります*3,4

酪酸が腸内環境を整えてくれているからこそ、乳酸菌やビフィズス菌は生きていけるとも言えそうです。酪酸は、健康な腸内フローラを維持するためのベースとなっていると言えるでしょう。

そんな酪酸ですが、酪酸を作り出せる腸内細菌は酪酸菌だけ。腸内の酪酸を増やすには、酪酸菌に目を向けることが大切です。酪酸を増やす方法は「食事や運動で腸内の酪酸を増やす!」で詳しく紹介していますので、あわせてご覧ください。

参考文献

*1 Science. 2018 Nov 30;362(6418).

*2 実験医学 36(18): 3054-3058 2018

*3 Gut. 2004 May;53(5):685-93.

*4 J Gastroenterol. 2012 Dec;47(12):1298-307.

関連リンク