腸から健康を支える! 注目の善玉菌「酪酸菌」の効果とは?

健康における腸内環境の重要性が注目される中、腸内フローラを整える鍵となるのが腸内細菌の善玉菌です。特に近年、善玉菌の1つである「酪酸菌」が話題となっています。

この記事では酪酸菌とは何か、酪酸菌の効果、そして酪酸菌を増やすための方法についてご紹介します。

監修ドクター
内藤 裕二 先生(一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会 理事長/日本酸化ストレス学会 理事長/京都府立医科大学大学院 医学研究科生体免疫栄養学講座 教授)

腸活で話題を集めている「酪酸菌」とは?

健康維持に役立つ酪酸を作り出す

「酪酸菌」とは腸内細菌の1つで、ヨーグルトなどに含まれている乳酸菌やビフィズス菌と同じ善玉菌の仲間です。
この「酪酸菌」は大腸を動かすエネルギー源となる「酪酸」を作り出しています。大腸の粘膜の細胞が必要とするエネルギーのうち、約60~80%が酪酸でまかなわれているのです。このことからも、大腸の正常なはたらきには酪酸が不可欠であるといえるでしょう。

インフルエンザの症状軽減などさまざま!
酪酸菌の効果

そんな酪酸菌には、腸内環境の改善のほかにも期待できる効果が多くあります。今回は特に注目すべき効果の一部をご紹介していきます。

【効果その1】腸内環境の改善・健康な状態の維持

腸は食物から栄養を取り入れ、有害物質を便として排出し、健康な体を維持する役目を担っています。そのうえ細菌やウイルスから体を守る免疫細胞の約70%が腸に集まっているといわれており、免疫系の要でもあります。だからこそ、腸内環境を整えることは重要なのです。
そんな腸内には100兆個もの腸内細菌が棲みつき、「腸内フローラ」という集団を形成しています。この腸内フローラを健康な状態にキープするのに、酪酸が役立っていることがわかってきました。
実は腸内細菌は、種類によって酸素を必要とする度合いが違います。善玉菌のビフィズス菌や酪酸菌は酸素を苦手とするタイプ。酪酸は、大腸内の酸素を消費させるはたらきがあり、酸素が少ない、つまりビフィズス菌や酪酸菌が活動しやすい腸内環境を作ってくれているのです。この酪酸のはたらきは、腸内フローラの活性化に大きく貢献しているといえるでしょう。

無数の菌たちが各々のテリトリーを保ちながら相互に影響し合って“
お花畑(フローラ)”のように豊かな腸内環境を形成。

【効果その2】免疫力の維持向上

まず、感染予防で大切なポイントは2つあります。1つは、ウイルスや細菌などの病原体から物理的な距離をとって接触しないこと。もう1つは、万が一病原体が侵入してきたとしても、ただちに排除することです。酪酸は後者に大きく関わっているといわれています。
病原体は、目・鼻・口・気道・消化管などの粘膜や皮膚から侵入します。特に粘膜は何層もの構造をもつ皮膚にくらべて薄いため、感染の危険が高い場所。
そんな粘膜の表面を覆い、病原体をブロックしているのが粘液です。粘液は細胞にくっつこうとする病原体などの異物を洗い流してくれるはたらきがあります。
そして、腸は粘膜の面積が非常に大きいことから、免疫の最前線であるといわれています。中でも大腸は分厚い粘液層(大腸バリア)で守られていて、酪酸には腸内の粘液の産生を促進させ、分厚い粘液層を保つのを助けるはたらきがあるといわれており、この大腸バリアの強化=免疫力の維持向上にも貢献しているのです。

【効果その3】インフルエンザの症状軽減

新型コロナウイルスの不安が強い一方で、毎年多くの感染者を出し、子どもや高齢者が重症化しやすいインフルエンザも注意すべき感染症です。
実は酪酸には、インフルエンザ感染対策において重要な3つの要素「IgA抗体」「マクロファージ」「CD8+(陽性)T細胞」や免疫細胞を増やすはたらきがあるということが実験的に確認されています。

3つの要素がどのように働くと考えられているのかご紹介します。まずはIgA抗体。この抗体は粘膜に多く存在し、病原体や毒素にくっつき、無力化してくれます。

インフルエンザ感染対策において重要な「IgA抗体」のはたらき

次に細菌などの異物を捕食・消化するマクロファージ。死んだ細胞や細菌を片付けることで、体を正常な状態にキープしてくれるといわれています。

インフルエンザ感染対策において重要な「マクロファージ」のはたらき

そして、「CD8+(陽性)T細胞」はウイルスが発見されると活性化し、ウイルス感染した細胞を排除してくれるはたらきがあるとされています。

これら3つの要素や免疫細胞が複合的に関係しあい、インフルエンザの感染を抑制し、症状を軽減してくれるのです。

インフルエンザ感染対策において重要な「CD8+(陽性)T細胞」
のはたらき

【効果その4】アレルギー予防・軽減

花粉症や喘息、食物アレルギーは増加傾向にあり、今や日本人の2人に1人が何らかのアレルギー症状をもっています。酪酸は、このアレルギーの予防や症状の軽減にも役立つことがわかってきました。
そのメカニズムは以下の通りです。酪酸のはたらきによって、レチノイン酸という成分が産生されます。このレチノイン酸は「制御性T細胞」という免疫細胞を活性化してくれます。制御性T細胞は、自己免疫疾患(例:膠原病、潰瘍性大腸炎)やアレルギーなどを引き起こす過剰な免疫応答を抑制する役割を担っているのです。この「免疫抑制」というはたらきを促すことから、酪酸が正常な免疫機能の維持向上に役立つ可能性があることが伺えます。

酪酸菌を増やすには?

食事の工夫

健康に役立つ効果が多い酪酸菌。この酪酸菌を増やすにはどうすればよいのでしょうか?
まずは食事による工夫が挙げられます。ぜひ意識したいのが、酪酸菌などの善玉菌を含む食材と、その善玉菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖を含む食材の両方をセットで摂る「シンバイオティクス」です。
特に「発酵」の特性がある水溶性食物繊維については酪酸産生を評価する研究も増えているため、積極的に摂取したいところ。中でもキウイフルーツは酪酸濃度を高めるという報告があり、おすすめです。
ただ、酪酸菌が含まれる食品は少なく、ぬか漬けや臭豆腐くらいしかありません。ぬか漬けは加熱せず、そのまま食べるようにしましょう。

また、不規則な食事時間は酪酸産生菌を減少させ、バリア機能障害の原因になるようなので、注意しましょう。

運動

腸の内容物を肛門へと移動させる「ぜん動運動」が盛んになると便通が正常になり、腸内環境が整います。運動には腸のぜん動運動を促す効果があり、アスリートの腸内には善玉菌が多いという報告も。運動習慣をつけることも腸内の酪酸菌を増やすのに効果的なのです。
実際に、息が上がるようなやや強度の高い運動を30~60分間、週に3回を6週間続けて行うことで、BMIにかかわらず酪酸菌が増えることが報告されています。運動する習慣をやめてしまうと酪酸菌が減ってしまうことも実験結果に示されているので、継続することが重要です。
まずは速足で歩くといった軽めの運動でいいので、1日30分の運動を習慣づけてみましょう。運動が好きなら、週に3日程度ランニングやサイクリングなどの有酸素運動をするのもおすすめです。無理なく続けられる形で始めてみましょう。

酪酸菌を味方にして、元気な毎日を!

腸内環境を整えるはたらきをはじめ、さまざまな健康効果が期待できる酪酸菌。あなたの健康の強い味方になってくれるはずです。酪酸菌を増やせるよう、習慣化しやすい方法を取り入れて、快調な生活を目指してみてはいかがでしょうか?

参考文献

・Furusawa, Y et al. Nature. 2013 Dec 19;504(7480):446-450

・Trompette A et al. Immunity. 2018 May 15;48(5):1-14

・Isobe J, et al. Int Immunol 2020, 32: 243-258

・Immunity 2019, 50: 432、Ji J et al. Sci Rep 2016, 6: 24838.

・Tan J, et al. Cell Rep 2016, 15: 2809.

・F. Bishehsari, et al. Transl Res 2021, 231: 113-123

・Parker et al. Plant Foods Num Nutr 2012, 67: 200-207

・Allen JM, et al. Med Sci Sports Exerc 2018, 50: 747.

関連リンク