専門家インタビュー 日本が健康長寿国を
維持するためにも
「酪酸菌」は重要な存在

一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会 理事長/日本酸化ストレス学会 理事長/京都府立医科大学大学院 医学研究科生体免疫栄養学講座 教授 内藤 裕二 先生

一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会 理事長/
日本酸化ストレス学会 理事長/医学研究科生体免疫栄養学講座 教授

内藤 裕二 先生

長寿研究で注目される酪酸

 私は、京都府北部にある京丹後市に住む高齢者の長寿の秘訣を探る疫学調査「京丹後長寿コホート研究」で、腸内フローラの研究を担当しています。研究はまだスタートしたばかりですが、すでに現時点で腸内フローラに関して、非常に興味深い事実が明らかになっています。そのキーワードが「酪酸」です。

その結果をお話しする前に、私がなぜ酪酸に注目をしているのか、その理由からお話しします。酪酸はかねてより、大腸上皮のエネルギー源として働くことは知られていました。しかし私をはじめ科学者が注目しているのは、酪酸が受容体を介して代謝に影響を及ぼしたり、免疫、神経系など身体全体に働きかけることがわかってきたからです。

しかも、その解明を世界に先駆けて明らかにしたのが日本人の科学者たちでした。例えば、東京農工大学の木村郁夫准教授は、代謝を司る交感神経節に多く発現する受容体GPR41は、酪酸によって活性化され、心拍数や体温の上昇などエネルギー代謝を促すという結果を出しています。このように現在の医学や生命科学では、酪酸の受容体を介した作用がフォーカスされ、それが糖尿病、肥満、免疫と関係があるのではないかと注目されているのです。

「京丹後長寿コホート研究」の話に戻しますと、京丹後市は、少し前までコンビニエンスストアもないような地域でした。ですから、今ご高齢になっている方は、自分たちで耕した田んぼや畑、山や海から食糧を調達する生活を続けていらっしゃいました。

私は、京丹後でこうした生活を経験してきた60歳以上の方の腸内細菌の特徴を明らかにするため、京都市内に在住している51人と腸内フローラの比較を行いました。その結果、京丹後の方には、ファーミキューテス門という細菌のグループが有意に多く、その構成のトップ4を占めたのは、すべて酪酸菌のひとつクロストリジウム菌でした。

これだけの差がでた影響因子については、現在解析中ですが、食生活の差が間違いなく関係しているとみています。またその人が、母親から生まれた時に受け継いだ腸内細菌も関係しているでしょう。

今、大腸がんによる死亡者は世界的にも増加傾向にあり、日本人の潰瘍性大腸炎の罹患者も年々増加しています。こうした腸の疾患が増えていることと、腸内環境の悪化は決して無関係ではありません。さらに腸内フローラの問題は、個人だけの問題でなく、世代を超えて受け継がれていくことから、日本の健康長寿国維持にも大きく関係してきます。実際、京丹後市でも同一家庭の祖父母世代から、そのお孫さんまでの3世代の腸内フローラを調べたところ、世代が若くなるにつれて細菌の多様性が低下し、状態が悪くなっていました。今手を打たなければいけない、そのなかでも今回の研究結果も踏まえ、「酪酸菌は重要な菌である」と私は考えています。

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