第3弾:中村 アン さん × 内藤 裕二 先生
前回の第2弾 腸活するなら知っておきたい注意点と食物繊維を摂取するコツに続き、腸活について女優中村アンさんと腸内細菌の研究における第一人者である内藤裕二先生にお話をうかがいました。今回は、腸活によって得られるメリットや酪酸菌の働きについてです。
対談者
内藤 裕二 先生
一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会 理事長/日本酸化ストレス学会 理事長/京都府立医科大学大学院 医学研究科生体免疫栄養学講座 教授
中村 アン さん
女優
内藤先生
腸内細菌を増やすためには食事が重要だとお話しましたが、腸内細菌に関しては新しいことがたくさんわかってきています。
ヨーグルトは腸内細菌を増やすためお肌や便秘解消に良く、またストレス緩和の効果があるというのは以前から言われていましたが、それ以上のメリットも発見されつつあるんです。例えば、まだ研究段階ではあるものの、腎臓に良いということもわかってきています。さらに、神経の病気や認知症にも良い効果が期待できることが明らかになってきているので、医学的にも注目が集まっています。
中村さん
そんなにたくさん良いことがあるんですね!
内藤先生
そうなんですよ。私は日本有数の長寿地域である京都府北部にある百寿者(100歳以上)の方が多い京丹後市で2017年から65歳以上の住民の腸内細菌や、普段何を食べて何をしているかについて研究しています。研究を通じて、「食生活が腸内細菌を良くしているんだろう」と長生きのヒントが見えてきました。
中村さん
何か違ったんですか?
内藤先生
長生きする方の腸内細菌には「酪酸菌」が多いことがわかりました。
中村さん
そうなんですね!酪酸菌とはどのような菌なのか、あらためて教えていただけますか?
内藤先生
酪酸菌は腸内細菌の一つです。酪酸菌が作る「酪酸」という物質が世界的に注目されたのは、慶應義塾大学の先生方が「酪酸が炎症やアレルギーを抑制する」といった、免疫細胞との関係を発表したことがきっかけです。この発表をきっかけに、世界的な酪酸菌ブームが始まりました。
それでは、京丹後の長寿者の方はどうなんだろう?と思い、2年間の調査を行いました。すると、長寿者320人のうち1.9%の方しかインフルエンザにかかっていなかったことがわかりました。一方でその頃、東京では10人に1人がインフルエンザにかかっていたことがわかっています。
中村さん
そうなんですね。かなり違いますね。
内藤先生
そうなんですよ。こういう発表を僕らがすると「田舎だから」と言われますが、もしかすると腸内環境が良いことや、腸内細菌に酪酸菌が多いことが免疫機能の維持に関係しているかもしれないと注目しています。
<酪酸菌についてもっと知りたい方こちら>
内藤先生
腸内にはいろいろな種類の細菌がすみついていて、私たち人間を助けてくれています。酪酸菌の健康効果が注目を集めていますが、酪酸菌だけで私たち人間が長生きできるかといえば、そんなことはないんです。
腸内環境は人間社会と似ていると思います。多様な人間がいるからこそ、今の人間社会が成り立っていますよね。腸内環境も同じで、酪酸菌、ビフィズス菌、乳酸菌、それ以外の菌…多様な細菌がいっぱいいた方が良いです。
中村さん
腸内細菌の数と種類が大事なんですね!腸活をしていると、善玉菌や悪玉菌といった言葉をよく耳にするんですが、酪酸菌は善玉菌になるのでしょうか?
内藤先生
実は「善玉菌」と「悪玉菌」は医学的な呼び方ではなく、正しくは「有用菌」と「有害菌」と呼びます。そして酪酸菌は、有用菌(善玉菌)の一つです。
中村さん
そうなんですか!?善玉菌や悪玉菌という呼び方を当たり前に使っていました…。
内藤先生
人にすみつく腸内細菌の種類は、1,000種類以上にもなると言われています。腸内細菌は種類ごとにテリトリーを保ちつつ、全体として集団を形成するのですが、この集団を「腸内フローラ」と呼びます。
腸内フローラを構成する細菌は、大きくカラダに良い影響をもたらす「有用菌(善玉菌)」、悪い影響をもたらす「有害菌(悪玉菌)」、どちらにも属さない「日和見[ひよりみ]菌」の3つに分類されます。
発見されている腸内細菌の数が少なかった頃は善悪で区別できていました。しかし最近の研究では、有用菌(善玉菌)とされていたものの中にも良い働きをしない菌がいたり、有害菌(悪玉菌)や日和見菌だと思われていたものの中にも良い働きをする菌がいたりすることもわかってきました。そのため今は、腸内細菌も多様性が重要視されています。
中村さん
なるほど!研究の進歩とともに、腸内細菌への考え方も変わってきたんですね。
ここまで内藤先生から、酪酸菌を増やすメリットについてうかがってきました。具体的にどのようにして酪酸菌を増やせば良いのか、心がけるべき生活習慣についても見ていきましょう。
近年の栄養学では、何を食べるかだけでなく、いつ食べるかも重要とされています。具体的には、夜型の食生活は酪酸菌の減少を引き起こします。
夜遅くに食べるのが習慣になっている人は、これを機に食事時間を見直してみてはいかがでしょうか。「寝る3時間前までに食事を済ませる」など、決まり事を作っておくことが大切です。
水溶性食物繊維は酪酸菌のエサとなり、腸内環境を整えるよう働きます。
以下のような食材は水溶性食物繊維を豊富に含むため、積極的に摂取しましょう。
実際、京丹後市では、4人に1人が全粒穀物※を毎日食べていることがわかっています。水溶性食物繊維を積極的に摂取して、酪酸菌を増やしましょう。
※「全粒穀物」は精白していない穀物のことを指し、胚芽、胚乳、外皮のすべてが含まれる。
腸内環境を整えるには、善玉菌のエサを摂って腸内細菌を育てるだけでなく、善玉菌そのものを摂取して補っていくことも重要です。善玉菌は、味噌やヨーグルト、漬物、キムチなどの発酵食品から摂ることができます。
とはいえ、今回紹介した善玉菌の一つ「酪酸菌」を含む食品は、ぬか漬けや臭豆腐くらいしかなく、食品から酪酸菌そのものを摂取するのは難しいとされています。そのため、酪酸菌を摂るためには、酪酸菌配合のサプリメントや整腸剤を活用するのも良いでしょう。
酪酸菌を増やすには、運動習慣も欠かせません。
息が上がるようなやや強度の高い運動を30~60分間、週に3回を6週間続けて行うことで、BMIにかかわらず酪酸菌が増えたという研究結果も報告されています。
運動が苦手なら、軽めの運動でも十分です。1日30分の運動を習慣にしてみましょう。運動好きなら、ランニングやサイクリングなどの有酸素運動も有効です。
腸内フローラにとって、睡眠不足は大敵です。休日に寝溜めをする人もいるかもしれませんが、体内時計の乱れにつながるため、毎日の睡眠時間を十分に確保してください。
また、十分な睡眠時間の確保と共に、以下のような睡眠の質を上げる習慣も取り入れてみましょう。
参考:内藤裕二著「酪酸菌を増やせば健康・長寿になれる~今、話題の酪酸・酪酸菌のすべてが分かる!」(あさ出版)