

監修:内藤 裕二 先生
京都府立医科大学大学院 医学研究科 教授/
一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長
花粉症の症状に腸内環境が関わっていることを知っていますか?花粉症の患者数は年々増加していて、2019年のデータでは日本人の42.5%が花粉症と報告されています。この患者数の多さはまさに「国民病」と言えるでしょう。さらに花粉症は低年齢化も進み、症状の重い患者さんの増加傾向もみられます。このように、花粉症は多くの人を悩ませていますが、腸内環境を整えることも対策となるのではないかと考えられているのです。ここでは花粉症の基礎知識とともに、腸内環境と花粉症との関連性をわかりやすく解説します。

まずは花粉症そのものについて、簡単に解説します。
日本人の花粉症患者のうち約70%はスギ花粉が原因と考えられています。地域差はありますが、スギ花粉は年初から飛び始めて3月にピークを迎え、5月頃まで飛散します。このスギ花粉よりも少し遅れて今度はヒノキ花粉が飛び始め、4月にピークを迎えて6月頃まで飛散します。
この他、キク科のブタクサ属・ヨモギ属などは8~10月が飛散シーズンで、秋の花粉症の原因として知られています。また、本州・四国・九州では、イネ科植物の花粉がほぼ1年を通して飛散しています。一方、北海道ではイネ科植物の花粉が6~9月に飛散する他に、シラカンバ属の花粉が5~6月をピークに飛散します。
花粉症はアレルギー性鼻炎に含まれ、アトピー性皮膚炎や喘息など「アレルギー疾患」と総括される疾患の1つです。
実は今、このアレルギー疾患の患者数が先進諸国を中心に世界的に増加していて、日本は特にその増加が顕著であるといわれています。現在、世界人口の25%程、国内では50%程が何らかのアレルギー疾患に罹患していると推測されています。
アレルギーとは、本来は体外から侵入してくる細菌やウイルスなどの有害なものを排除する仕組みである「免疫」が、過剰に働いてしまっている状態です。そのため、体に害のないものに対してまで、それを排除しようとして炎症反応が引き起こされ鼻炎などの症状が現れてきます。
花粉に対してこのような過剰な免疫反応が起きてしまうのが、花粉症です。ただ、花粉が体内に入ったからといって、すぐに花粉症になるわけではありませんし、アレルギーの素因を持っていない人は花粉症にはなりません。
アレルギーのような過剰な免疫反応が起こる原因は、遺伝によるものと環境によるものに大別されます。ただし、先進国を中心に患者数が急増しているという事実から、環境要因の関与が大きいと考えられています。
特に近年、花粉症の患者数が増加している要因としては、飛散する花粉の量の増加、食生活の変化、感染症の減少などが指摘されています。さらに最近の研究では、花粉症の症状を悪化させる可能性があるものとして、空気中の汚染物質や喫煙、ストレスの影響、空気の乾燥などが考えられています。
加えて、近年は飛散する花粉の量の増加および人々の体質の変化により、感作※1が成立するまでの期間や、発症するまでの期間が短くなり、小さな子どもでも花粉症にかかるようになってきています。他にも、春先の黄砂が花粉症の症状を悪化させる可能性が指摘されています。
※1 感作(かんさ):花粉などのアレルゲンに触れた際にその抗原に対する免疫応答が形成され、次回以降に過敏に反応するようになる状態のこと。
また、後述するように、免疫という仕組みにとって特に重要な臓器は大腸であり、大腸に生息している細菌の集まりである「腸内フローラ」の乱れが、免疫の異常に関わっていることが明らかになっています。栄養バランスの偏り、超加工食品※2の摂取、抗菌薬の使用などは腸内フローラの乱れを招き、その結果、免疫の異常が起こる可能性も考えられています。
※2 超加工食品:化学的な加工技術を用いて作られた食品のこと(インスタント食品、菓子類など)。
花粉症の治療、花粉に対するアレルギーによる症状を抑える方法として、4つの方法が考えられます。
対策の1つ目は、アレルギー症状を引き起こす直接的な原因である花粉を、できるだけ避けることです。具体的には、マスクやフード付き眼鏡の使用、花粉が付着しにくい素材(綿や化学繊維など)の衣類を着る、上手に換気をする、室内を加湿する、洗濯物を部屋干しするなどが該当します。
「上手な換気」のコツは、窓を開ける際の幅は10cm程度にすることと、レースのカーテンを使用することです。この2つを行うことで、侵入する花粉を約4分の1に減らすことができると言われています。花粉を回避するには窓を閉め切った方が良いという考え方もありますが、一方で、換気の良くない室内環境が花粉症の症状の悪化に関係しているとする指摘もあります。そのため、「上手な換気」が必要といわれているのです。
他にも、空気清浄機を使用することで、空気中のアレルゲン濃度を下げ、アレルギー症状を抑えることが期待されています。特に「HEPAフィルター」という、花粉などのごく小さな粒子を捕集することができる高性能なエアフィルターが搭載されているものが好ましいといわれています。
対策の2つ目は、花粉に対する過剰な免疫反応により起こる、鼻や目などの粘膜の炎症を抑制することです。
その炎症を抑えるためには、抗炎症作用のある薬、あるいはアレルギー症状を引き起こす「ヒスタミン」という物質の作用を抑える薬(抗ヒスタミン薬)などが使用されます。既に現れている花粉症に対する即効性という点では、このような薬剤の使用が望ましいとされています。
対策の3つ目は、免疫の過剰反応が起こりにくい体質に改善すること。その方法は、アレルゲン免疫療法と呼ばれる治療法です。
これは、アレルギーを引き起こす原因物質(スギ花粉症の場合はスギの花粉)を極めてわずかに含んでいる薬を用いて、体を少しずつ原因物質に慣らしていき、過剰な免疫反応が起こりにくい体質にしていくという治療法です。
上述の3つの方法に加えて、腸内環境を整えることも、花粉症の症状を抑えるうえで効果が期待できます。
花粉などによるアレルギー症状を抑えるには、免疫の仕組みが欠かせません。腸内環境は、その免疫と深い関わりがあるのです。詳しくは次の章で解説します。

ここからは、この記事の本題である腸内環境と花粉症の関連について解説していきます。
免疫には、生まれながら備わっている「自然免疫」と、生まれた後に身に付く「獲得免疫」があります。前者は、さまざまな有害異物(細菌やウイルスなど)を区別せず排除する仕組みで、後者は、体内に侵入を試みようとした異物(抗原)を記憶して、それらの異物の特徴を把握しておき、再び同じ抗原が侵入してきたときに、それを効率的に排除する仕組みです。
異物に対してはまず自然免疫が迅速に働き、自然免疫を突破して侵入してきた抗原に対しては、獲得免疫が作り出す「抗体」が排除するように働きます。
自然免疫と獲得免疫はいずれも異物を攻撃するもので、いわば免疫の「アクセル」です。ただし、アクセルが強すぎると、攻撃する必要のないもの、例えば自分自身の正常な組織にさえ攻撃を仕掛けてしまいかねません。そこで、免疫というシステムには、過剰な反応を抑える「ブレーキ」も備わっています。2025年、大阪大学の坂口志文先生は、この免疫のブレーキの要とも言える「制御性T細胞(Treg)」などの研究の功績により、ノーベル生理学・医学賞を受賞されました。
免疫というシステム全体がきちんと働くには、アクセルとブレーキのバランスが重要です。アクセルが強すぎたり、ブレーキが弱すぎたりすると、アレルギーや自己免疫疾患が起こりやすくなってしまいます。
免疫を担っている細胞は、異物が体内に入り込もうとする最初の関門といえる「粘膜」に多く分布しています。中でも腸は、体に栄養素や水分を摂り入れるため、体に必要で有益なものと不要で有害なものを区別する必要があることから、免疫にとって極めて重要な臓器です。そのため、免疫を担う細胞の約70%は腸に存在していると考えられています。
腸の中には、膨大な種類・数の腸内細菌が暮らしていて、その様子があたかもフローラ(花畑)のようであるため「腸内フローラ」と呼ばれています。近年、その腸内フローラが、便通の維持や改善などの腸の働きに重要なだけでなく、全身の健康状態とも関連していることが注目されています。例えば、肥満や2型糖尿病(生活習慣病としての糖尿病)、がんのリスクに関連していたり、睡眠、老化現象とも関連があることがわかってきています。
そして、当然のことながら、腸内フローラは免疫を担う腸の働きとも密接なつながりがあります。例えば、アレルギー疾患のある患者さんは酪酸菌という腸内細菌が少ないこと、花粉症の患者さんは花粉のシーズンに腸内フローラの構成が変化すること、健康に役立つ腸内細菌である「善玉菌(有用菌)」(※以下、善玉菌)をプロバイオティクスとして摂取するとアレルギー症状が改善することなどが示されています。
先ほど、体内に侵入する異物に対しては、まず自然免疫が働き、それでも排除しきれなかった異物に対して獲得免疫が作用すると解説しました。ただし、この流れよりもさらに手前に位置する免疫の仕組みがあります。それは粘膜や皮膚の「バリア機能」です。異物が侵入しようとする粘膜や皮膚には、それを阻止するバリケードとしての働きがあり、それをバリア機能と呼んでいます。
腸の粘膜のバリア機能は、腸管上皮細胞という細胞が、互いにしっかりと密着していることで成り立っています。もし、腸管上皮細胞のバリア機能が低下すると、体に入れてはいけない有害な異物が侵入しやすくなる可能性があります。
腸のバリア機能の低下により異物が侵入しやすくなっている状態のことを、「リーキーガット症候群」といいます。リーキーとは英語の“leaky”で「漏れる」という意味、ガットは“gut”で「腸」のことで、つまり「腸漏れ」という意味です。今、このリーキーガット症候群とさまざまな健康状態の悪化との関連が、盛んに研究されています。
そして、腸内フローラは、腸管上皮細胞のバリア機能の維持にも関与しています。バリア機能を維持するように働く腸内細菌が少ないことが、リーキーガット症候群の起こりやすさに関係していて、その結果として、アレルギー反応を引き起こす異物(抗原)に対して過剰な反応を招く可能性があることも示されています。
さて、花粉症の全体像について、アレルギー疾患と腸内環境・腸内細菌の関連について解説してきました。ここで、花粉症と腸内細菌のより直接的な関連について解説します。この話をするときに重要となる腸内細菌が、先ほど「腸内環境は全身の健康状態に深く関わっている」の項で少し触れた「酪酸菌」です。
「酪酸菌」とは、腸内細菌のなかで、食物繊維が発酵する過程で「酪酸」を生み出す菌のことをいいます。
酪酸は「短鎖脂肪酸」の1つです。短鎖脂肪酸とは、炭素が2~6個ついている構造の脂肪酸のことで、主として酢酸・プロピオン酸・酪酸の3つが該当します。これらの短鎖脂肪酸はいずれも人の健康にとって有益な面が多いことが明らかになってきており、特に酪酸の有用性が注目されています。
酪酸の健康に対する有用性とは、例えば、腸の粘膜のエネルギー源となり腸のぜん動運動(腸の内容物を先へ先へと運ぶための運動)に関わったり、この後に解説するように免疫の働きを整えたり、さらには、がん細胞の増殖抑制や老化抑制、健康長寿との関連なども報告されています。
酪酸は、花粉症に対して主に、以下の3つの経路で症状を抑えるように働く可能性が考えられています。
腸の粘膜のバリア機能を維持する:
酪酸は腸管上皮細胞のエネルギー源として使われて、そのバリア機能を維持します。つまり酪酸は、抗原の侵入を防ぐ機能に寄与することで、アレルギー反応そのものを起こりにくくする可能性があります。
制御性T細胞(Treg)への分化※3を誘導する:
先ほど、免疫のバランスの維持には制御性T細胞(Treg)という免疫細胞が重要という話をしましたが、酪酸は未分化のT細胞から制御性T細胞への分化を誘導するとの研究成果が報告されています。
※3 分化:細胞が特定の役割を持った細胞へと変化すること。
炎症を抑える:
上述の制御性T細胞は、免疫の過剰な反応を抑える働きがあります。つまり、過剰な免疫反応が発生してしまっても、それによる炎症を抑えることによって、鼻炎などの症状を緩和する可能性があるのです。

ここからは、花粉症対策としての腸内環境を整える方法について解説していきます。これらはまだ研究段階の情報が多いというのが実情ですが、腸内環境を整えるというアプローチは、健康効果も期待できるという特徴があります。
腸内環境を整える1つ目の方法は「プロバイオティクス」です。これは、人の健康に有益と考えられる善玉菌そのものや、善玉菌を含む食品を摂取することです。プロバイオティクスによって腸内の「悪玉菌(有害菌)」(※以下、悪玉菌)の増殖が抑えられ、腸内環境が整いやすくなります。
善玉菌に該当するものとして、先ほど取り上げた酪酸菌の他に、乳酸菌、ビフィズス菌、糖化菌などが挙げられます。これらの善玉菌は、ヨーグルトや乳酸菌飲料、納豆、漬物などの発酵食品に含まれています。
腸内環境を整える2つ目の方法は「プレバイオティクス」です。これは、善玉菌のエサを摂取することで善玉菌の働きをサポートすることです。プレバイオティクスにより、腸内で善玉菌が優勢になって腸内環境が整いやすくなります。また、善玉菌がプレバイオティクスを食べて代謝・発酵される過程で「短鎖脂肪酸」が発生することから、さまざまな健康効果を期待できます。
プレバイオティクスに該当するものとして、オリゴ糖や発酵性食物繊維などが挙げられます。発酵性食物繊維とは、腸内細菌のエサとなることで発酵されやすい、つまり短鎖脂肪酸が作られやすい食物繊維のことです。発酵性食物繊維は、りんご、キウイ、ごぼう、玉ねぎ、大麦、きのこ類、豆類、いも類などに多く含まれています。
一方、腸内細菌のエサとして利用されにくい食物繊維は、「非発酵性(難発酵性)食物繊維」と呼ばれます。摂取しても短鎖脂肪酸は作られにくいものの、腸のぜん動運動を刺激して便通を改善する働きが期待できます。非発酵性(難発酵性)食物繊維は、ごぼう、枝豆、小麦ふすま、全粒粉パンなどに多く含まれています。
腸内環境を整える3つ目の方法は「シンバイオティクス」です。これは、プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせて摂取することです。
プロバイオティクスによって腸内環境が整えられるとともに、プレバイオティクスによって善玉菌の働きをサポートするように作用します。この2つを組み合わせることで、互いの機能がより効果的に働くといわれています。
さらに、シンバイオティクスは腸内環境を整えるだけでなく、免疫抑制や感染防御など、全身への健康効果も高められるのではないかと期待されています。
さらに、新たに注目されている方法が「ポストバイオティクス」です。これは、食品成分を材料に腸内細菌が生み出す代謝産物を摂取することです。酪酸を含む短鎖脂肪酸は、ポストバイオティクスの1つとして知られています。このポストバイオティクスが腸から吸収されて体中で働くことにより、健康に有用な効果をもたらすと考えられています。
腸内環境を整えるには、プロバイオティクスやプレバイオティクスなどによる腸内細菌へのアプローチ以外にも大切なことがあります。
例えば運動。適度な運動は腸のぜん動運動を促し、便通を改善します。便通が改善すると悪玉菌が繁殖しにくくなり、腸内環境が良くなります。また、運動により腸内フローラの多様性が高まるという報告もみられます。他にも、運動習慣の改善が腸内の酪酸菌を増やすのに効果的といわれていて、息が上がるようなやや強度の高い運動を30~60分間、週に3回を6週間続けて行った試験では、酪酸菌が増加することがわかりました。その後、運動量の少ない生活習慣に戻ると、酪酸菌が減ってしまうことも報告されています。つまり、継続的な運動習慣が、腸内の酪酸を増やす可能性があるといえるのです。
また、睡眠も大切です。睡眠不足が腸管上皮細胞のバリア機能の低下と関連しているといった報告があります。その他に精神的なストレスも、自律神経バランスの乱れを介して、腸の環境に負の影響を及ぼすことが示唆されています。

今や春の訪れの代名詞とも言える花粉症。せっかく冬の寒さが和らいできたかとホッとするのもつかの間、くしゃみ、鼻水、目のかゆみに悩まされてしまうという人も少なくないことでしょう。そのような症状への対処の1つとして注目されているのが、腸内環境へのアプローチです。特に酪酸菌は、腸の粘膜のバリア機能を維持したり、酪酸菌の産生する「酪酸」が免疫のバランス維持に重要な免疫細胞(制御性T細胞)への分化に関わっていたり、炎症を抑えたりなど、花粉症対策に関わる重要な作用を持つ腸内細菌として注目されています。
ただし、酪酸菌が含まれている食品は少ないため、普段の食事にプラスして酪酸菌配合の整腸剤などを活用することもおすすめです。花粉を回避するなどの基本的な花粉症対策に加えて、そのような腸内環境を整えるための取り組みを行うことで、より良い効果が実感できるかもしれません。花粉症シーズンの到来に備え、できることから始めてみてはいかがでしょうか。

京都府立医科大学大学院 医学研究科 教授/一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長
消化器専門医として最新医学に精通し各地で講演も行っている。消化器病学や消化器内視鏡学、生活習慣病の他、健康長寿や抗加齢医学、腸内フローラや酪酸菌研究も専門としており、「京丹後長寿コホート研究」で腸内フローラ解析に携わっている。酪酸菌と健康長寿の関係などの研究をはじめ、長年腸内細菌を研究し続けている本領域の第一人者。
『すべての臨床医が知っておきたい 腸内細菌叢』(羊土社)、『酪酸菌を増やせば健康・長寿になれる』(あさ出版)、『健康の土台をつくる腸内細菌の科学:健康長寿の秘密を追う医師が案内する腸のすごい世界』(日経BP)などを上梓。
参考文献
● 内藤 裕二,日経BP,2024「健康の土台をつくる腸内細菌の科学:健康長寿の秘密を追う医師が案内する腸のすごい世界」
● 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会編,金原出版,2024「鼻アレルギー診療ガイドライン : 通年性鼻炎と花粉症 2024年版」